私たちが普段演奏している「ダンス音楽」について解説してみました。
私たちのバンドで普段演奏している曲は、一般的に「ダンス音楽」と呼ばれるジャンルの曲です。このダンス音楽というのは、ごく簡単に説明すれば「社交ダンスで踊る時に演奏される音楽」ということになります。
社交ダンスには一定の型(ステップ、リズム)があり、その型の中で気持ちよく踊れるために楽曲も決まりに沿ったジャンルやテンポの曲が作曲されたり、あるいはオリジナルの曲をアレンジ(編曲)して演奏されます。
参考までに社交ダンスの国際団体であるIDSF(International Sports Dance Federation)および国内団体のJSDF(日本ダンススポーツ連盟)の競技規定に書かれている使用曲(ジャンル)を紹介しますと
となっています(これらを「競技ダンス」と呼ぶことがある)。
また、上記以外にも「マンボ」「ジルバ」「ブルース」など、競技には使われないけど気軽なダンスパーティーなどで一般的に踊られるダンス(これらを「パーティーダンス」と呼ぶことがある)もあります。
ですので、「ダンス音楽」と言った場合には上記のダンスに使われる曲の総称、と思っていただければまず間違いはありません。
実際に演奏されるダンス音楽の曲の構成は、ダンスしやすいよう(踊り疲れないように)一曲の長さが約3分以内になるようにアレンジしてあるのが一般的です。また、ダンサーが曲を聴いてすぐに踊り出しできるようイントロ部は4小節、長くても8小節以内で構成されていることが多いです。
ここでトリビア。"社交ダンス"の語源は"Social Dance"の訳語なのですが、英語では"Ballroom Dance"と呼ばれることが一般的で、ダンス音楽のことを"Ballroom Dance Music"(社交ダンス音楽)といいます。ヘー。
ワルツといえば3拍子の曲、と学校で教えられたようにダンス音楽の中で唯一3拍子で演奏される曲です。
ワルツには「ワルツ(Walts)」と「ヴィニーズワルツ(ウィンナーワルツ:Viennese Walts)」の2つがあります。この二つの大きな違いはテンポで、ワルツが約90拍/分に対してヴィニーズワルツは約180拍/分と倍のテンポになっています。
ですのでワルツの演奏は長いゆったりとしたフレーズに波のような音の強弱をつけて演奏されますが、ヴィニーズワルツではウィーンの舞踏会などで踊られるクルクル回転しながら踊るダンスですので音の強弱も短いメリハリがついたものになります。
ジャズの名曲「テネシーワルツ」のようにゆったりしたテンポが「ワルツ」、クラシックのニューイヤーコンサートで演奏されるような比較的早いテンポが「ヴィニーズワルツ」ということになります。
社交ダンスでラテン曲といえば「ルンバ」と「チャチャチャ」といわれるほど、踊る側にとっても演奏する側にとっても人気の曲です。"キング オブ ラテン"といわれたザビア・クガート楽団のテーマソング「マイショール」は美しく情熱的なルンバのナンバーとして有名です。
実はこのルンバとチャチャチャは、非常に密接な関係があります。
歴史的に見ると、1920年代に生まれたキューバの「ソン(Son)」を起源に「ルンバ」が作られました。このルンバにジャズの要素を取り入れて、1930年代後半に「マンボ」が作られ大流行します。ペレス・プラド楽団の「マンボNo.5」は誰もが知っている有名な曲ですね。このマンボに4分休符2拍+8分音符の3拍の4ビートで「1,2,チャチャチャ」と聞こえるリズムを加えた音楽が「チャチャチャ」で1951年にエンリック・ジョリーンが初めて紹介したと言われます。
つまり「ルンバ→マンボ→チャチャチャ」と発展してきた、すなわちチャチャチャはルンバの孫ということになります。
ですので、音楽的にルンバとチャチャチャは音楽として共通する点があるのですが、チャチャチャの語源にもなっている「チャチャチャッ」という独特のリズムがあるかどうかで違いがわかります。またテンポもルンバが約110拍/分に比べてチャチャチャが約120拍/分と若干チャチャチャの方が早いテンポであることも特徴の一つです。
あと曲想(曲の雰囲気)の違いでは、チャチャチャは陽気で軽快、ルンバは色っぽくて情熱的な曲で、これはそのまま社交ダンスの踊り方の違いにつながるところだと思います。
スローフォックストロット・クイックステップの起源は、1912年にアメリカからパリに渡ったカッスル夫妻が「ラグタイム」(ジャズの原型)に合わせて踊った「カッスルウォーク」というダンスとされています。このカッスルウォークはやがてアメリカ人のハリー・フォックスによって「フォックストロット」というダンス形式が作られました。
1920年代になるとアメリカで「チャールストン」という早いテンポのダンスが流行します。このチャールストンの流行がイギリスに伝わった際、イギリスではフォックストロットの曲をチャールストンの早いテンポで演奏したのですが、テンポが速すぎて今までのフォックストロットのステップでは踊ることが難しかったそうです。そこで、1924年にテンポの速いフォックストロットを「クイックステップ」、これまでのフックストロットを「スローフォックストロット」と二つに分けた、といわれています。
いずれも4拍子の4ビートリズムの曲が演奏される点では共通しますが、スローフォックストロットが大きな上下運動が少なく川の流れのようにスムーズに踊るダンスですから、使われる曲も程よく歩くテンポ(約120拍/分)で強弱の抑揚が少なく、穏やかな波のように柔らかな感じの曲が選ばれます。一方クイックステップはアップテンポで躍動感があり、早いテンポ(約200拍/分)でスピード感が溢れる演奏がされます。ベニー・グッドマン楽団の「Sing, Sing, Sing」、グレンミラー楽団の「イン・ザ・ムード」などが代表的なクイックの曲になります。
ジャイブとジルバは比較的最近のダンスです。1920年代にジャズ音楽が広まってゆく中、スイングジャズの演奏をバックに女性を左右に振って踊る「リンディホップ」というステップが流行します。このリンディーホップは年を経るごとに進化し複雑化されて様々なダンスが生まれてゆきました。その中の「ジッターバグ」のダンスが1940年代後半にイギリスへ渡り、イギリスの民族ダンスを元に改良されて「ジャイブ」が生まれました。
一方、終戦後の日本で米軍の将校らがキャバレーで踊っていた「ジッターバグ」が、やがて「ジルバ」という名前で日本国内に広く親しまれるようになりました。なぜ「ジルバ」という名前になった理由は、アメリカ兵士のジッターバグという発音が、日本人の耳には「ジルバ」と聞こえたから、と言われています(笑)
つまり、ジャイブはジルバ(ジッターバグ)から生まれた、ということになりますね。
いずれも使われる曲はロックンロールやディスコ調のもの、あるいはアップテンポなスイングジャズが使われることが多く、曲のノリもよいので演奏する側も踊る側も年齢に関係なく一般ウケが良いです。
ジャイブとジルバには音楽的に明確な区分けは特にありません。しかし社交ダンスの本場イギリスに渡って生まれたジャイブがそのまま社交ダンスの競技ダンスのラテン種目として取り入れられ、ジャイブの起源であるジルバ(ジッターバグ)は競技ダンスに取り入れられなかった、ということもあり、『ダンス』としては明確な区分けがされる(ステップが違う)ということになっています。
ですのでこれらの曲を演奏する際は、同じ曲でもテンポが変われば「踊る側にはちゃんと違いがある」ということを意識して、踊る側の意向やダンスホールの方針などに合わせた選曲・テンポ設定をするのが必要です。
また、このジャイブやジルバの曲をスローテンポで踊るダンスの一つに「ブルース」があります。同じスローテンポの4ビート曲にスローフォックストロットがありますが、スロー・フォックトロットは、流れるような旋律と流暢なリズムで、アクセントが必ず1拍目と3拍目(オンビート)にあるのですが、ブルースは、これとは反対にフレーズやリズムが断片的でアクセントが1~4拍目に均等にあらわれたり、場合によって2拍目と4拍目(オフビート)に来るのが特徴です。
このように音楽的には上記のような違いがあるのですが、踊る側にはなかなか差がわかりづらいらしく、一般的にはブルースはやや遅め(90~110拍/分)にしてテンポの違いで区分けをするようです。
一点だけ注意しなければならないのは、この「ブルース」というのはあくまでも社交ダンスでの「ブルース」であって、音楽の世界の「ブルース」とはまったく無関係です。ですから『社交ダンスの「ブルース」が好き』という人がいたら、その人は決してエリック・クラプトンの曲が好き、ということではないことを付け加えておきます(笑
元々はブラジルのアフリカ系黒人奴隷たちの間で生まれた踊りが元となっており、当初は打楽器と掛け声だけの音楽が年月を経ることによってヨーロッパの民族舞曲と楽器が混ざり合い、サンバの原型が生まれました。有名な「リオのカーニバル」に代表されるように打楽器がメインの曲に併せた即興的な踊りは陽気で情熱的。いかにもブラジル!というダンスですね。
しかし、社交ダンスで呼ばれているサンバは、いわゆる「カーニバル」のサンバとは全く趣が異なります。というのも、リオのカーニバルなどを見て判るようにサンバは本来大勢の民衆が一緒に音楽にあわせて踊る、というダンスなので社交ダンスのような上流階級の人たちのダンスには向きません。そこで「マシシ」というカップルダンスにサンバの音楽を用いて踊る、というスタイルが出来上がりました。これがいわゆる「ダンス音楽」での「サンバ」です。このサンバが、いわゆる1950年代のラテンブームで欧米や日本に広まり、1960年代に競技ダンスの正式種目として取り入れられました。
ですので、一般的な「サンバ」とダンス音楽での「サンバ」は基本的に全く同じで2/4拍子(楽譜上は2/2拍子で表記されることが多い)のリズミカルな曲調になります。「バウンス・アクション」という上下動の激しいスタイルで踊られるので、ダンサーのリズム感を狂わせないようにしっかりとビートを刻むことが大切になります。
また、音楽的は本来4ビートなんですが楽譜上も2/2拍子で表記されることが多く、また競技ダンスの世界でもサンバを2拍子と考えていることが多いので、実質的には16ビートで捕らえると楽かもしれません。つまり16ビートは一小節が16拍(1拍4ビート×4拍)に分割されるのでリズムを言葉で表すと
「タッッッタッッッ、タッッッタッッッ」
となります。これにサンバのリズムを組み合わせて
「タッッタターーー、タッッタターーー」
という感じになる訳です(わかりますか?)
先に述べたように、サンバは元々が打楽器と掛け声だけで演奏された曲ですから、今日の演奏でも打楽器つまりパーカッションのリズムがあると非常に盛り上がります。どちらかというとパーカッションがメインになる曲ですね。楽しく心躍る演奏を心がけたいです。
マンボは「ルンバ、チャチャチャ」の項でお話したように、ルンバにジャズの要素を取り入れて1930年代後半に作られた音楽です。「マンボNo.5」にもあるように「ア~~~~、ウッ!」という掛け声が入ったりコンガなどのパーカッションがリズムをリードすることが多く、陽気な雰囲気のラテン曲です。
サルサは、基本的にはほとんどマンボと同じです。これは音楽的に見ても踊り的に見ても若干の違いはあれど大差はありません。唯一の違いはテンポの違いでして、マンボに比べて少しだけ早く、チャチャチャのテンポかそれより少し早くしたイメージ(120~136拍/分)になります。(大雑把な解説ですいません。細かいところでは全く違うかもしれませんが・・・詳しい方、ぜひ教えてください。)
どちらも「競技ダンス」の曲ではなく「パーティーダンス」として分類されていますので、競技ダンスのようにかしこまらず気軽で陽気な曲のノリで踊れることもあって、特にサルサは社交ダンスを知らない若い人たちの間でブームになっています。
サルサだけを演奏して飲んで踊れる「サルサ バー」なんて店も流行っているので、気軽に聴いて踊れるダンス音楽として今後も人気が続くのでは、と思います。
パソドプレはスペインの国技でもあり伝統娯楽でもあ、闘牛において、牛と闘牛士が入場する際に演奏される楽曲の総称です。17世紀に始まったサルスエラ(スペインのオペレッタ)の舞踏曲としてパソドブレが組みいれられるようになり、やがて民衆の間でもパソドプレに合わせて踊られるようになりました。
男性がマタドール(闘牛士)を、女性がケープ(マタドールがあやつる布)又は牛をモティーフにして踊られるパソドブレは、1920年代のカフェで「スパニッシュ・ワンステップ」というステップで生まれ、これがフランスに渡って現在のパソドプレのダンス形式になったとされています。ですので、他のラテン種目が女性が主役であるのに対して,パソドプレでは男性が主役になる点がダンスの上での大きな特徴です。
もともとパソドプレは闘牛士が入場する際の行進曲ですので、曲は基本的に4分の2拍子なのですが、3拍子の要素が入って8分の6拍子で演奏されることもあります。パソドブレ「paso doble」はスペイン語で「倍のステップ」という意味ですから、テンポも通常の倍の早いテンポで演奏されます。競技ダンスや技術検定の標準種目となっていますが、踊れる人が限られるのでダンスパーティーで演奏されることは少ないです。
本来、曲のテンポというのは作曲家が曲想にあわせて決めるものなのですが、ダンス音楽においてはあくまで「社交ダンスのための曲」ですので、曲のテンポは"ダンスのステップ"に合わせたものになります。
ですのでダンス曲を演奏する際にはテンポが命で遅くても早くてもダメ。ダンサーが踊りやすいように決められたリズムをキープし続けることが重要です。
参考までに、日本ダンススポーツ連盟(JDSF)の「JDSF競技規則」あるいはその上部団体である "International Dance Sport Federation"(IDSF)の「IDSF COMPETITION RULES」で社交ダンス競技大会や認定試験で規定している曲のテンポをご紹介します。
| 曲目 | 1分あたりの小節数 | テンポ(4分音符換算) |
| スローフォックストロット | 28~30小節/分 | 112~120拍/分 |
| クイックステップ | 50~52小節/分 | 200~208拍/分 |
| ワルツ | 28~30小節/分 | 84~90拍/分 |
| ヴィーニーズワルツ | 58~60小節/分 | 174~180拍/分 |
| ジャイブ | 42~44小節/分 | 168~176拍/分 |
| タンゴ | 31~33小節/分 | 124~132拍/分 |
| ルンバ | 25~27小節/分 | 100~108拍/分 |
| チャチャチャ | 30~32小節/分 | 120~128拍/分 |
| サンバ | 50~52小節/分 | 200~208拍/分 |
| パソドブレ | 60~62小節/分 | 240~248拍/分 |
また、競技大会の曲目にはないパーティーダンスの「ブルース」「ジルバ」「マンボ」「サルサ」の一般的なテンポは以下のとおりです。
| 曲目 | テンポ(4分音符換算) |
| ブルース | 90~140拍/分 |
| ジルバ | 150~200拍/分 |
| マンボ, サルサ | 120~136拍/分 |
競技のときは上記のテンポに従わなければなりませんが、ダンスパーティーなどでの演奏はもちろんこれに限ったわけではありません。特に社交ダンス愛好者の年齢はどちらかというと高い(40~60歳)ので、速いテンポでは踊る側がキツイ!ようです。ですから、上記のテンポを参考に参加されているダンサーの習熟度や年齢などを考慮したテンポ設定を主催者側と打ち合わせるのがベストだと思います。
実際このテンポで演奏してみると、曲によっては思った以上に遅い或いは早いテンポだったりして「えぇ~、こんなテンポでいいの?」と驚くことがあります。マンボやサンバなんかは私の頭の中のイメージではもっと早いテンポでアップテンポな曲ですから、上記のテンポで「マンボNo.5」を演奏すると全く違和感を感じるんですよね(^^;
比較的ノリのよいラテン系の曲をダンス音楽として演奏するときなどは、テンポの思い違いに注意が必要です。
テンポが乱れないようにするため、実際の本番演奏ではリズムセクション(主にドラム)がメトロノームをイヤホンで聞きながら演奏したり、リズムボックスを使ったりして、テンポが変わらないようにすることがあります。
曲中にアドリブがある場合、コンサートやライブではアドリブ奏者が自由勝手に演奏できますが、社交ダンスのバック演奏では、自分のテンポやペースでブイブイ吹くことは許されません。フレーズはアドリブでも『キープ・テンポ』での演奏が必要です。
そもそも踊っている人たちはダンスに夢中ですから、アドリブ奏者の演奏なんか元から聞いていないんですよね。たとえ超絶技巧の素晴らしいアドリブであっても、テンポが乱れるようでしたら「そんな演奏じゃ踊れない」と白い目で見られてしまいます。。。
逆に、テンポさえ合っていれば簡単なフレーズの繰り返しでもOK。私のようにアドリブが苦手な奏者でも何とかごまかすことができる、ということにもなりますね。
ただ、踊り疲れて休んでいる人たちはしっかりと聴いているのでご注意を(笑
フェニックスサウンズオーケストラにて演奏する際に、普段使用している各曲のテンポはおおよそ以下のとおりです。
| 曲目 | 1分あたりの小節数 | テンポ(4分音符換算) |
| スローフォックストロット | 28小節/分 | 110拍/分 |
| クイックステップ | 42小節/分 | 166拍/分 |
| ワルツ | 28小節/分 | 84拍/分 |
| ジャイブ | 38小節/分 | 152拍/分 |
| タンゴ | 31小節/分 | 123拍/分 |
| ルンバ | 25小節/分 | 98拍/分 |
| チャチャチャ | 30小節/分 | 120拍/分 |
| サンバ | 47小節/分 | 188拍/分 |
※ヴィーニーズワルツ、パソドブレは普段演奏していません。
あまり早いテンポでは体力的に無理だったりしますし、落ち着いたテンポで楽しくダンスを踊っていただくために、ウィンターガーデンでの演奏では特にテンポの速いクイックステップ、ジャイブ、サンバは競技テンポより遅めに、それ以外のステップでも競技テンポの一番遅いテンポに設定しています。
特にスローフォックストロットでは、曲想を考慮して上記のテンポより若干遅めの設定になることもあります。